ものづくり補助金グリーン枠の新設ー脱炭素社会に貢献する企業を志向してー
ものづくり補助金グリーン枠の新設ー脱炭素社会に貢献する企業を志向してー
ものづくり補助金では、10次締切分の公募から新しい申請類型として「グリーン枠」が新設されました。ものづくり補助金は、革新性ある新しい製品やサービスの開発、または生産プロセス・サービス提供方法の改善への取組に役立てるために活用できる補助金で、多くの事業者の方々において検討の対象となっています。
この記事では、新しく設けられたグリーン枠の内容について解説しています。厳しい業況の中にあっても賃上げ等に取り組んでおられる事業者の皆様に役立てば幸いです。
ものづくり補助金グリーン枠の概要
グリーン枠の補助内容
新設されたグリーン枠の補助内容は次のような内容になっています。
項 目 | 要 件 |
概要 | 温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発または炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
補助金額 | 【従業員数5人以下】 100万円〜1,000万円 【従業員数6人〜20人】 100万円〜1,500万円 【従業員数21人以上】 100万円〜2,000万円 |
補助率 | 2/3 |
設備投資 | 単価50万円(税抜き)以上の設備投資が必要 |
補助対象経費 | 機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費 |
「通常枠」と同様に、小規模事業者も補助の対象となっています。また補助率については、原則1/2の「通常枠」に対して2/3、従業員数に応じた補助金額の上限も高く設定されるなどと非常に充実した内容となっています。社会的課題である環境負荷の低減を踏まえた新たな取組に挑戦する事業者に生じる大きな費用負担をしっかりバックアップする強い姿勢が現れています。
他の申請類型と同様に、補助対象経費は広い区分をカバーしていますが、グリーン枠の趣旨に沿った事業経費であっても、太陽光パネル本体等の構築物や蓄電池電源設備等の建物付属設備は補助対象となる経費とならないことに注意が必要です。
グリーン枠の補助要件
グリーン枠の補助事業は、交付決定日から10ヶ月以内(ただし、採択発表日から12ヶ月後の日まで)の補助事業実施期間内に、発注、納入、検収、支払等の全ての事業の手続きを完了させなければなりません。原則として補助事業実施期間の延長はありませんから、実行可能なスケジュールで事業計画を策定するよう留意しましょう。
また「基本要件」として、次の3要件を全て満たす3〜5年の事業計画を策定することが求められています。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均5%以上増加。
(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
※ 給与支給総額とは、全従業員(非常勤を含む)および役員に支払った給与等(給料、賃金、賞与および役員報酬等は含み、福利厚生費、法定福利費や退職金は除く)をいいます。 - 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする。
- 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額(営業利益、人件費、減価償却費を足した額)を年率平均3%以上増加。
グリーン枠特有の要件
さらにグリーン枠については、「基本要件」に加えて、以下の(1)〜(3)全ての要件に該当するものである必要があります。
- 次の①または②に該当する事業であること。
- 温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービスの開発
(例:省エネ・環境性能に優れた製品・サービスの開発、非石油由来の部素材を用いた製品・サービスの開発、廃棄物削減に資する製品・サービスの開発 等)
- 炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供の方法の改善
(例:生産工程の労働生産性向上を伴いつつ脱炭素化に資する設備投資、水素・アンモニアを活用する設備導入による燃焼工程と生産プロセスの最適化、複数ラインの作業工程を集約・高効率化 等)
- 3〜5年の事業計画期間内に、事業場単位または会社全体での炭素生産性を年率平均1%以上増加する事業であること。
- これまでに自社で実施してきた温室効果ガス排出削減の取組の有無(ある場合はその具体的な取組内容)を示すこと。
炭素生産性向上に関する要件について
グリーン枠での申請時には、前述のグリーン枠特有の要件を満たすことを示すため、指定様式の「炭素生産性向上の取組及び温室効果ガス排出削減等の取組状況」に所要の内容を記載し、添付書類として提出する必要があります。
企業における炭素生産性とは、温室効果ガス排出量当たりの企業の生産高を指します。ものづくり補助金グリーン枠においては、付加価値額をCO2排出量(エネルギー起源二酸化炭素排出量)で割った数値で表します。
グリーン枠の要件においては、炭素生産性の向上に資することが事業内容として求められるとともに、事業場単位での客観的な数値目標を事業計画において定めなければなりません。炭素生産性の向上率は、事業計画期間の事業年度1年間の炭素生産性と基準年度(補助事業実施完了の年度)の炭素生産性の差を、基準年度の炭素生産性の値で割って算出します。
また、炭素生産性を算出する上で必要な1年間のCO2排出量の把握に当たっては、経済産業省ウェブサイトのページ「事業適応計画(産業競争力強化法)」で公開されているExcel形式の「エネルギー起源二酸化炭素排出量等計算ツール」を利用して算出することができます。なお、算出の基礎としては事業場または会社の電気および都市ガスの使用量が用いられます。
脱炭素の革新的取組により成長を促進!
ここまで、ものづくり補助金に新設されたグリーン枠の内容および要件について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
脱炭素社会の実現に資する取組は、単に企業の社会的責任(CSR)を果たせるだけにとどまらず、後述の通り企業の成長にとって大いに有効な戦略と考えられます。
政府は2020年10月に「カーボンニュートラル2050」を打ち出しました。この実現に向けた産業社会を構築するためには、炭素生産性が低い分野から高い分野への労働移動が不可欠です。というのも、このトレンドの中にあっては、現実にCO2排出削減に繋がるかは別として、炭素生産性が高い企業が優遇され、低い企業に対しては重い負担を求める誘導的な政策が十分に予測されるからです。その手段としては、温室効果ガス排出に繋がる化石燃料の利用に対して課される「地球温暖化対策税」や、日本国内でも一部導入されているCO2排出権取引制度(「キャップ&トレード制度」)など、企業の炭素利用に関連する費用負担を左右する制度の運用が挙げられます。
すると、炭素生産性の高い企業としては、炭素利用コスト負担が軽減されるだけでなく、炭素生産性の低い産業から徴収された原資による補助金を得ることも可能となり、収益率も高まるでしょう。こうして、脱炭素の革新的取組は企業の成長を促進するのです。
もっとも、そのような取組は相応の費用を必要とします。そこで、継続的取組の足掛かりとして、ものづくり補助金グリーン枠を活用した事業計画を検討してはいかがでしょうか。